マイクログリーンとは一種類の野菜を指すのではなく、様々な野菜の幼芽を総称した呼称。広島市内に農園をもつ「ECO360」でもレッドキャベツ、水菜、ルッコラ、ラディッシュ、シソ、バジルなど、多種類のマイクログリーンを育てている。スプラウト、マイクロリーフ、ベビーリーフなどと混同されるが、基本的には発芽してからの日数やその葉丈によって呼び名が異なる。また発祥の地と言われるアメリカでの呼称が日本での呼称と異なる場合があることや商品名が品種名のように認知されているものもあり、各々を明確に説明するのは難しい。はっきりしているのは、当農園のマイクログリーンは、土耕栽培であるということ。繊細な野菜なので、風や光といった自然環境でさえも細やかにコントロールしながら、ハウスでのトレイ栽培を行っている。水耕栽培よりも手間がかかるが、魅力はその濃厚な味にある。試しにラディッシュやルッコラなど、馴染みのある野菜のマイクログリーンをひと口、食べてみた。これが成育したもの以上の香りとしっかりした味で驚いた。ラディッシュはピリリとした辛味が印象的。ごまの風味と言われるルッコラも成育したものよりも、秀でた味がした。複数のマイクログリーンを盛り合わせると、多彩な一皿ができあがる。
「せっかくならまだ市場に出回っていない品種を育ててみよう。」そう考えた農園主の清水健二さんは「ひまわり」に注目。ひまわりを野菜として食べることがないので、どんな味か想像がつかないが、なんだか好奇心をくすぐられる。見た目は、他のマイクログリーンより茎や葉がしっかりしていて、他の品種より少し長持ちするのもうれしい。種の殻が残っている様は、まるで葉が帽子をかぶっているかのよう、生まれたて感が伝わってくる。味はナッツに似ている? 生ハムやチーズと合わせたらどうだろう、刺身と合わせたら? 料理人なら、きっと創作意欲がかきたてられるに違いない。
珍しい品種は、種の入手先を探すのも生産者の腕の見せどころ。英語も堪能な清水さんは、海外の情報にもアンテナを立て、国内だけでなく北米からも安心して栽培できる種を厳選し、取り寄せている。
種の安全性を確認する、発芽して収穫までのほんの1~2週間、繊細なマイクログリーンの成育環境を整える、この2点は絶対に手を抜かない。そうすれば、栽培中に農薬や除虫剤を使う必要もない。
清水さんは、収穫したその日に配達まで完了させるのがモットーだ。農園近隣地域や広島市中心部には、自ら配達に出かけている。エリアは限られ、取引先を一軒ずつ回るのは時間もかかる。それでも自分の育てたものが色んな店で面白く使ってもらっている、それを知ることが楽しいという。
それは同時に買い手側の醍醐味でもある。生産現場のリアルな情報を生産者から直接、聞くことができる。中間業者が届けてくる野菜だけでは、決して知りえない真の情報だ。本来「産直」とは、産地直送ではなく、産地直結という意味だ。今、食材というモノだけでなく、価値あるコトを受け取ることができる料理人が求められている。
産地直結であることを願う清水健二さんは、いつも「面白いこと」にアンテナを張っているECO360株式会社の若き社長。鮮度重視、当日収穫したものしか販売しない、と断言する。
文/平山友美
料理/平山友美(マイクログリーン ひまわりを生ハムでくるりと巻いて)